欲しいものがある。
「今日もよろしくお願いします!」
億劫と言えど、塾は塾。
大学を選べるレベルには到達したい。
やると決めたからには途中で投げ出さないのが私のモットー。
個室でワンツーマンだから、いやと言うほど端麗な顔を近付けられ、その時点で私はげんなり。
桜庭先生との二人きりという異様な空間。
半年たった今でも慣れない。
それでもめげずに隣に座る私、えらい。
「彩、今回の宿題ミスが多いぞ、どうした」
そう言われて自分の世界から引き戻され、採点し終わっているプリントを見直す。
そこに丸を描く図形は問題のおよそ半分。
半分以上がペケだった。
「ええっ!betterがbitter になってるし!あ、こっちも……」
久々の悲惨な結果に思わず声をあげてしまった。
我ながら、感情の行き来が忙しい。
「どうしたんだ、最近落ち着いてないのか?」
(最近と言うか、桜庭先生に変わってからずっと落ち着いてられませんけどね?!)
「あは、い、いや……浮き足立ってる……のかな?なんちゃって……」
「何言ってるんだ。男にうつつ抜かしてるんじゃないだろうな」
(隣の桜庭先生。ハイスペックなお顔で近寄らないで~!)
真顔で接近してくる桜庭先生。
そんな先生は現在大学2年で、塾講師は一応バイトらしい。
初見の時は経験に富んでそうだな、という漠然とした年上な感じと、このハイスペックさ、アスリート並みの体型、それから凛々しい表情、桜庭先生はとにかく、「できる男」だと思っていた。
確かにできる男ではあるのだと思う。
けれど、コミュニケーションがとりづらい上に無表情。
笑わない。
皆でわいわい騒ぐことが楽しいとする私にとって、その無の時間のような空間作り出す桜庭先生は苦手なタイプでしかない。
居心地が悪い。
社交辞令程度くらいの付き合いを進めることができれば、と思うこの頃。
「はぁああ」
そんなに深いため息すると、せっかくのモテフェイスから、生気抜けていきますよー。
嫌みをついつい言っちゃうあたり、相当私も桜庭先生が苦手だった。