欲しいものがある。
教科書を閉じ、おもむろに席を立つ桜庭先生。
後二時間あるというのに奥へ消えていく。
ついに私は怒らせたか呆れられたか、何ら
かの落胆をさせたのだろうと思った。
「このまま帰っちゃダメかな……」
居づらい上に最悪なこの状況。
帰りたい。
帰りたいよ。
「ほら」
なんと桜庭先生は再び現れた。
それも、多大なるプリントの山を抱えて。
「男にうつつ抜かす余裕があるなら、来週までにこれしてこい」
「え……と」
(うつつなんか抜かしてないけど、今週は秋の学園祭がっ……!今がピークで忙しいのに、これは無茶だよ!ただでさえ、いつもの宿題手一杯な状態なのに!)
だがしかし。
私は考えた。
普通に学園祭があると言っても、この山は撤去できない。
あの鉄火面を黙らせるような話術を展開するしかない!
私は頼みの綱となる物を、バッグの中がぐちゃぐちゃに散乱しようとも構わず、やっと見つけ出した。
「今週末ですね、このようなものが開催されましてですね……」
例の物、所謂学園祭のチケットを呈示しながら説得を試みる。
「……」
「っそれで、ミスコン(ミスコンテスト)に私が出るので、もしよろしければ……」
「……」
本当は来てほしくない。
羽を伸ばす機会に、桜庭先生が来るなんて、こんなの自殺行為だと承知してる。
だけど、今この山を受けとれば、もっと自殺行為。
(桜庭先生に立ち向かう勇気を、どうか神様、この私目に授かりください!)