きらきら
事務所の窓から見えるのは街のメインストリートと山。
町で唯一のスーパーは反対側にあるので、人通りはあまりない。
昔ながらの書店と化粧品も売ってる衣料品店。閉店した薬屋と甘すぎるシュークリームを売る菓子店。酒屋にクリーニング店に理容店。コンビニは遠くに一店舗と反対側に一店舗。コンビニとコンビニに小さな町は挟まれている。いっそオセロのようにクルリと引っくり返ってすべての店がコンビニになればいい。
昼休み終わりに自分の席に戻り、スマホを動かしていると
「みっちゃんもツィッターやってるの?」
井上さんは離れた私の机にSサイズのハウスみかんを放り投げ、LLサイズの身体を自分の席にはめ込んだ。ぷっくらとした井上さんの手から放たれたオレンジ色は、私の灰色の世界に一瞬色を付ける。でもそれはオレンジだからパステルカラーとは少し違う。
「やってるけど、最近あまりつぶやいてないですね。インスタの方が多いかな」
手に収まったハウスミカンはオレンジじゃなくて、にんじん色だった。
「そっかー。私は昨日挑戦してみたんだけど、なんかわけわかんなくなって、めんどくさいからもう放置」
「井上さんがツィッター?」
井上さんの横幅に負けてる課長が高い声を出す。事務所中が驚きの空気に包まれたけど、井上さんは堂々とどこかのマダムのように「ええ」って答えて目をパチパチさせるから、私達は吹き出して笑った。パソコンが苦手で老眼の為に嫌々スマホにした井上さん。雑な所もあるけれどふっくらLLサイズの井上さんは職場の癒しだと思う。
「遠く離れた友達がやり始めて誘われたんだけど、やっぱり私には向いてない。でもあちこち覗いてるだけで面白いね。好きなタレントのツィッター見てたら時間が経つのが速い速い。晩ご飯が遅くなって息子たちに怒られちゃった。ずーっと携帯を手から離さない子供達の気持ちもわかるわ」
うんうんって井上さんは勝手に納得しながら、ちょっとだけ恥ずかしそうに仕事に戻る。私はにんじん色したハウスみかんをスマホと並べて机の引き出しに入れて、みかんをこのまま忘れてしまう設定を考える。この鮮やかなにんじん色はシミのような青かびを発生させて内部から腐り出し、シミは殴られた青痣になって白いわたぼうしを被り菌を育てるだろう。
永遠にパステルカラーにはなれない。