聖なる夜の願い ~ホテル・ストーリー~

廊下に出ると、彼が外で待っていた。
しばらくそうしていたのか、ばつが悪そうに私と目があった。

「こんなことろで何やってるの?」彼が怒ったように言う。
ドアを開けてくれた旦那さんに挨拶もせず、つかつかと近づくと乱暴に私の腕を引っ張った。
「えっと、すみません」
「いいよ。またおいで」お礼を言うのがやっとだった。
「ねえ、痛いって。離して」彼は、すぐに手を離した。

エレベータに乗って、乱暴にボタンを押したら、彼は急に黙り込んでしまった。
怒ってると思ったのに。表情が暗い。

「中に入って」
部屋に入る頃には、彼の顔も、怒りの表情は消えて何とも言えない悲しい顔になっていた。
私は、初めて彼を心配させたことを後悔した。
「心配させたね。ごめんなさい」
「いいよ、もう」
「うん」
私は、部屋の窓から冷え冷えとした東京の街を見ていた。

「なあ」私を抱きしめて言う。
「ん?」
「俺じゃなくてもいいんだぞ」
「俺じゃなくてもいいって?」私は、言葉の意味を考える。
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