注文の多いクリスマスイブ
サプライズは、もう一つあった。
デザートを食べ終えて、普通に家に帰るものだと油断していた私は、あっさりと智宏が予約していた部屋に連れ込まれた。
部屋に足を踏みいれて、まず目に飛び込んできたのは、大きな窓に切り取られたキラキラと輝く街。
柔らかなオレンジの灯りに、部屋全体が浮かび上がる。嫌味のないスタイリッシュな装いだ。
「智宏、急にどうしちゃったの?」
「どうもしないよ。クリスマスに、恋人とホテルで過ごすなんて、珍しくない」
それは、世間一般の話だ。私たちは出会ってから一度もそんな色っぽいクリスマスを過ごしたことはない。
「10年間、ありがとう」
まるで別れの挨拶みたいなひと言に、もしや、これは最後の思い出的なやつなのかと覚悟を決めたものの、彼の口から出たのは、その予想とは真逆の言葉だった。
「これからも、よろしく」
言葉とともに、智宏が乱暴に私の左手を取る。薬指の先に冷たい何かが触れたかと思ったら、あっという間に指の付け根にそれを押し込まれた。
何が起きているのかまるで分からないまま、抱きしめられて大きめのダブルベッドに押し倒された。彼が私の左の首筋に顔を埋めて囁く。
「だめだ、頑張ったけど、恥ずかしすぎる」
悶絶しているのか、顔をフルフルと小刻みに振って、うーんと小さなうなり声を発する。その様子を見て、唖然としていた私もようやく我に返った。
「もしかしてさ、指輪してくるなって言ったのって……」
「今頃気付いたの?必要ないでしょ、こんな立派なのあげるんだから」