注文の多いクリスマスイブ
押し倒されたまま、左手だけよっこらしょと引き抜いて、天井にかざしてみる。
窓の外と同じくらい、いやそれ以上に輝いている一粒のダイヤ(だと思う)に頬が緩んだ。

きっと、今更私に改まってプロポーズするなんて、かなり恥ずかしかったに違いない。きっと、それらしいシチュエーションなら、その場の空気でどうにかなると考えて彼はこの作戦を決行したのだろう。

それでも、よかった。

たとえ、はっきり「結婚してくれ」と言われなくても構わない。
彼の、初めてのサプライズ。
料理も、この部屋も、彼のチョイスは寸分違わず私のストライクど真ん中だ。
こんな技、世界中探しても彼にしか繰り出せないだろう。

ニヤニヤしていたら、首筋をぺろりと舐められた。「ひゃぁ」と変な声が出て、つくづく私たちはロマンチックとは無縁だなと思う。

「この髪型いいな。敏感なところにキスしやすい」
「この状況で考えてることが、それ?」
「所詮、男なんてそんなもんだ。ちなみに、この前アユが結婚式出掛けていく時に思いついたんだけど」
「せっかくのムードが台無しだけど?」
「じゃあ、聞くけど。あの日、俺がどれだけ気を揉んだか知らないだろ?いつもよりキレイにして、おまけにうなじガラ空きで出掛けるなんて、男が寄ってくるに違いないし。結婚式って意外と出会いを期待して来る奴多いっていうし…」

ぶつぶつと彼の文句は続いた。恥ずかしついでにいろいろ言っておくことにしたらしい。

「職場も女ばっかりだって言うけど、少なくても男も居るんだろ?休みの日みたいに手抜いて行けよ」

まさか、嫉妬までしてくれていたとは驚きだ。
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