そこの御曹司、ちょっと待ちなさい!
「はじめまして、真由さん。
慎吾の兄の九条明です。
慎吾の彼女がこんなに可愛い人だったなんて思わなかったな」

「そんな、とんでもないです」

 
ずいぶん女慣れしてそうだけど、セレブなイケメン御曹司。

慎吾の前じゃなかったら、いつもの私だったら、もっと媚を売ってるところだけど、さすがに今はできない。

常識の範囲内の挨拶に留めておく。

それでも、無意識のうちに愛想を振り撒いてしまったけど。


それから、ほんの少しだけ雑談をしたあとに、他の人に挨拶をしてくるとお兄さんはあっさりとその場を立ち去ろうとする。

しかし、去り際。


「今度は逃げられないといいな」


慎吾の耳元で囁いたお兄さんの声が、隣にいた私にまで、はっきりと聞こえてしまった。

なに、いまの?

そのことに触れるべきか触れないべきか悩んだけど、当の慎吾が小さくため息をついただけで普通に振る舞っていたので、何も触れないことにしておく。

とりあえず、今の時点では。
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