クリスマスイヴを後輩と
赤いヒールを脱いで、ぽんっと放った。

「せっかく、お洒落してきたのに」

特別誰に見せるでもなく、なんのためのお洒落か、と言ったら、この部屋へ来るためのお洒落。違う。私のためにしてきたんだ。もしどこかで高瀬くんと逢った時、綺麗だと思われたくて、自分のためにしてきたお洒落。

高瀬くんに電話をかけようと、バッグをひっくり返して携帯を手にしたのに、かけられないまま、二十分が過ぎた。

「やっぱり、駄目だ、私」

三十歳と二十五歳の差は大きい。そう思うと涙が出てきて。一粒の涙が頬を伝った時、携帯が鳴った。

画面に浮かんでいる名前は『高瀬柊司』。

「えっ! 高瀬くんからだ。どうしよう。えっ、ど、どうしよう」

戸惑いを隠せないまま電話に出る。

「はっ、はい」

「後藤先輩、僕、高瀬ですけど」

「はい」

「今、大丈夫ですか?」

高瀬くんの低めの声が耳元にあるだけで目眩がしそうになる。

「大丈夫です。なにか用?」

馬鹿だ、私。ずっとその声を聴いていたいのに『なにか用』なんて催促して。

「あの、僕……」

「なに?」

「思い切って言いますね。俺、クリスマスイヴを未華子さんと一緒に過ごしたくて」

「えっ」

「今、ホテルエトワール・フィラント東京にいるんですけど、来てもらえませんか。部屋は二十九階の──」

私は赤いヒールを履くと、部屋を飛び出した。この下の階に高瀬くんがいたから。
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