クリスマスイヴを後輩と
ホテルの廊下を走るなんていけないことだけど、今は走るしかないし、今の私を止められる人はいない。

階段を駆け降りて、高瀬くんの部屋の前に来た私は呼吸を整える余裕もないままドアをノックした。

ドアが開いて、高瀬くんの顔を見た瞬間、胸が『じゅっ』と、焦がされた。

「未華子さん、早っ!」

いいの、びっくりされても、たとえ、引かれてもそれでもいいの。

「逢いたかったから」

素直にそう言うと、感情が溢れそうになって。大人の女性として落ち着こうと、精一杯のコントロール。

「私もここに泊まってて」

「えっ、それって彼氏と……」

「ううん、おひとりさまです」

ちょっと胸を張ってそう言った。なんだか『おひとりさま』が誇らしく思えたのだ。

「よかった。入って」

高瀬くんは、私を促すように部屋へと招いた。

「でも、高瀬くん、どうしてこのホテルを選んだの?」

「ちょうど一年前のクリスマスイヴ。取引先へ向かう途中で、未華子さんが、このホテル憧れなんだ、って言ったから」

「それを覚えてたの?」

「覚えてますよ。未華子さんのことが好きだから」

今、未華子さんのことが好き、て言った? それにいつの間にか『未華子さん』て呼ばれてる?

「本当は、スイートルームじゃなくてエグゼクティブスイートの予約を取ろうとしたんです。でも、取れなくて。上の階は窓が広くて、夜景も、もっと綺麗に見えたんじゃないかな」

「私はここから見える夜景がいい。高瀬くんと一緒の部屋がいい」

「嬉しい」

高瀬くんは私をそっと抱き寄せた後、甘くて柔らかいキスをした。
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