極上な彼の一途な独占欲
「ね、ヒロ、やっぱり私…」


伊吹さんが通用口のほうへ歩き出した。私たちに声をかけるでもなく、このバカバカしい現場を早く去りたいとばかりに、足早に。

その背中を見ていたら、涙が浮かんできた。もうぐちゃぐちゃだ。頭の中も心の中も、状況も。

絶対に誤解された。


「なに泣いてるの、それじゃ俺が悪者みたいじゃん」

「離してよ…」

「やだよ」


ヒロが私の腕を掴み、プレハブのドアに押しつけた。そうしてから、あっと気づいたように顔をほころばせる。


「ちょうどいいや、ここ入れるよね? 中借りて話そう」

「なにバカなこと言って…」


ドアノブが捻られ、背中のドアが開く。体重を預けていたものがなくなり、私は控え室の中に、よろけながらヒロごと入った。

暗い室内。ヒロが後ろ手にドアを閉め、ノブのつまみを回して施錠する。

その強引さは、彼らしい無邪気さという範疇を超えていて、私は怖くなった。


「ヒロ…」

「ん?」


曇りガラスの窓から入る、わずかな外の明かりが、ヒロを横から照らす。私はじりじりと距離を取った。


「あの、ねえ、もう私には興味ないんだよね?」

「そんなこと言った記憶ないけど」

「私、ヒロに言いたいことがあるの。でもできたらここじゃない場所がいい」

「じゃあどこがいい? ホテルの部屋行く?」


にこっとヒロが笑う。

それ以上近づけない、それ以上離れさせない、という不可侵の空間を中心にして、私たちは回転するように一歩、一歩と移動する。気づいたとき、私はドアの前に来ていた。

唯一の逃げ場にしがみつくみたいに、私は背中をドアにくっつけた。鍵のあるノブにはさわれなかった。ヒロの視線が、私の左手にじっと注がれ、動きを封じたからだ。
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