極上な彼の一途な独占欲
「はい」

『あ、伊吹? 土曜に申し訳ない。今撮影監督と打ち合わせをしてるんだけど』


同僚からだった。

伊吹は向こうに伝わらない程度にため息をつき、デスクチェアに身を沈めた。


「ユーザーオフミーティングの?」

『まさしく。この動画素材、本国に提供するって話だったろ。向こうが欲しがってる画のニュアンスとか知りたいんだって。俺だと伝えきれなくて』

「そっち、終わるの何時だ」

『監督にケツがあって、12時』


見なくても時刻はわかっているが、なんとなく腕時計を確認した。10時前。すぐに合流しないと時間がたりない。

ふと見ると、洗面所の入り口に美鈴が立っている。もう事情を察しているようで、両手を交差させてバツのマークを作り、疑問を表すように首をかしげていた。伊吹は顔をしかめてうなずくことで、当たりであることと遺憾の意を伝える。

美鈴が洗面所に消えたのを見て、「30分で着く」と同僚に告げ、デスクの上の車のキーを手に取った。




「伊吹、こっち」


都内のスタジオに着くと、同僚の宮野(みやの)がビルの入り口まで迎えに出てきてくれていた。同業他社から中途入社してきたので同期ではないが、伊吹と同い年だ。

リレーションシップチームと呼ばれる、カスタマーとの絆を作る活動を行う部署にいる。仕事の内容上、ブランドマネジャーである伊吹と動くことも多い。


「悪いな、出てきてもらっちゃって」

「いや」


昼も夜もない激務と見られがちだが、伊吹の会社は欧州のきっぱりしたバケーション文化を反映しており、無駄な残業、休日出勤の類は野暮とみなされる。

しかし宮野の部署は例外で、カスタマー向けのイベントを主催したりすることが多いため、どうしても休日の仕事が増える。

代わりが利かず、そこに任務があれば行かざるを得ない立場の伊吹は、なんだかんだこうして土日も動くことになる。

これまでは特に気にしたこともなかったが、美鈴という相手ができてみると、これはなかなか厄介かもしれないな、と伊吹は考えた。
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