極上な彼の一途な独占欲
「今も食べ物屋さんにいるのに」

「ここは軽く済ませたらいい」

「ショッピングも嫌、動物園も嫌い、映画もダメなのに、アジアン・フェスはいいんですか?」


心底不思議そうに首をかしげる。

伊吹はメニューを見ながら、「だって行きたいんだろ」とうなずいた。たぶん現地では伊吹の好む食べ物は見つからないだろうから、自分はここでしっかり食べていこう、と考えながら。

美鈴は腑に落ちない顔をしていたが、伊吹が行く気だということだけは理解できたんだろう、「尊さんてけっこう気分屋ですよね」とふくれてみせ、それからからかうようににっと笑った。




「すごい、天才! AI積んでるみたい!」


都が管理している大きな公園の駐車場からフェス会場まで歩く間、美鈴はすっかり興奮し、ぴょんぴょん飛び跳ねながら伊吹の腕にしがみついてきた。


「妙な褒め方やめろ」

「だってバックモニターも見てなかったですよね?」


駐車場で唯一空いていたスペースが、運悪く隣の車がバカでかいワゴンで、しかも下手なのか事情があったのか、だいぶこちらにはみ出してきていたのだ。

伊吹は先に美鈴を降ろし、運転席側にドアが開くだけのスペースを確保し、すなわちワンボックスにこすりそうな隙間にぴたりと入れた。

美鈴にはそれが感動的だったらしい。


「モニターを見ると逆に勘が狂うんだ」

「どうしてあんなことできるんです?」

「学生時代、車を停めるバイトしてた」


「車を停めるバイト?」と美鈴が繰り返した。伊吹はうなずき、説明してやる。


「ふ頭で、輸出用の車を運搬船に積み込むバイト。車間なんてこのくらいしか空けられないし、スピードも求められるしで、とりあえずうまくはなる」


言いながら3センチくらいの幅を指で示してやると、美鈴の目がまん丸になった。

いろいろな車に乗れて面白そう、と思って始めたバイトだが、いざやってみると作業は眠り込みそうなほど単調で、じわじわと自分の腕を上げていくことで楽しみを見出していたようなものだった。
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