極上な彼の一途な独占欲
「そんなバイトがあるんですか…」

「あるんだ」


ワゴンのドライバーが、腹いせに伊吹の車にぶつけないといいが。まあ向こうも欧州車だったし、板金塗装に神経を使う苦労は知っているはずだ。助手席側から乗り込むことを思いつかないほどのバカじゃないのを祈るだけだ。

そんなことを考えながら歩いているうち、フードコーナーの屋台が見えてきた。

昼間から酒を飲み、食べたいものを食べたいだけ食べ、雑貨屋を冷やかす。そんな人々にまぎれ、美鈴も完璧に同じことをしてみせた。ただし酒以外。

楽しむのが上手だなあ、とそれを見守った。気づいたらもう1時間以上、彼女につきあって公園内をぶらついている。

春先の土曜日、午後2時、晴天。気のいい音楽と、油と香辛料の匂い。

これはいい。

ふと、美鈴が物欲しげにタイビールのワゴンに秋波を送っているのに気づいた。


「飲みたいなら飲めよ」

「尊さんが車だし」

「俺はお前が飲んでも気にしない」

「私が気にするんです。それにひとりで飲んでも嬉しくない」


揚げ物、飯物、スイーツ、とひっきりなしに買っては食べていた彼女が、また屋台でなにか食べ物を買い、かぶりついて「ん!」と声を発した。


「これ、尊さんも食べられるかも」


差し出されるままに、クレープのようなものをかじる。アジアン料理は、辛い、甘い、酸っぱいのいずれかの組み合わせしかないと思っていた伊吹は、意外な気持ちで「いける」とうなずいた。

蒸した鶏肉が、あっさりした野菜と一緒に巻かれている、それだけの料理だ。

カフェで食べたカレーも消化されてきた頃なので、もうひと口と想い美鈴のほうを見たら、察しよくまた差し出してくれる。結局伊吹がほとんど食べた。


「ん」


一休みしようと、人混みから少し離れ、大きな木を囲むベンチに腰掛けたとき、伊吹の携帯が震えた。

隣に座った美鈴が、出てもいいけど自分のことを忘れるな、とでも言うように、伊吹の手を握ってくる。本人は無自覚らしく、ペットボトルのお茶を飲みながら空を見上げている。

笑いを噛み殺しながら見ると、結城からのメールだった。
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