極上な彼の一途な独占欲
再びニットをかぶり、着心地を直す。


「とりあえず思い浮かんだなにかに手をつける、とかじゃなくて。これがしたいとはっきり思えることだけをやりたかったんだ」


パンツのポケットから車のキーを出し、デスクの上のトレーに置いた。その動作をじっと見ていた美鈴を振り返る。


「せっかく一緒にいるんだから」


怪訝そうだった顔に、はっと驚きが表れ、その後で困ったように眉尻がさがっていき、ついでに赤くなる。


「…じゃあ、尊さんからもなにか提案してくれたらよかったのに」

「俺はあいにく、なんでもよかった」

「なにそれ!」


すぐ怒るのが面白くて、笑いながら口づける。


「美鈴のしたいことにつきあいたかった」


大きな目が、困惑と照れのようなものに揺れながら、伊吹を見つめ返してくる。「ずるいですよ」と小さな声が言ったので、「そうか」と返した。

どういう意味で"ずるい"のかいまいちわからないが、わざわざ聞き返すほどのことでもない気がした。ずるいとかひどいとか、言われるのは慣れている。

なにか羽織るものを持っていこうかな、と再びクローゼットのほうを向いたときだった。

後ろから、ぎゅっと美鈴が抱きついてきた。

ジャケットを探していた手を止め、胸元に回された腕を見下ろす。華奢な指はしっかりと、ニット越しに伊吹の身体を捕まえていた。


「つきあってもらえます?」


背中に直接響く声。

伊吹は素知らぬふりで、ジャケットをハンガーから取る作業を続けた。


「バーなら今から行くところだぜ」

「違いますってば!」


その剣幕に吹き出してしまう。

ハンガーを戻し、美鈴の腕の中で身体の向きを変えた。

見上げてくる顔は真っ赤で、瞳にはもう、毎度伊吹の理性を吹き飛ばす、あの濡れた色が表れ始めていた。

これに弱いのだ。

普段明るく健康的な彼女だけに、こうなったときの落差は伊吹を掻き立てる。

抱きしめようと腕を回しかけたところに、電子音が鳴った。
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