極上な彼の一途な独占欲
得心したように伊吹さんがうなずく。それから私を見た。


「この間のブース満足度ランキングの記事を、書いてくれたのが彼だ。礼を言わないとな」

「あっ…、はい」


私の反応は明らかに変で、伊吹さんの眉をひそめさせてしまった。

ヒロが親しげに笑いかける。


「礼は情報でくださいよ」

「わかったよ。来月の試乗会には真っ先に呼ぶ。現地で開発者インタビューできるよう手配もしておくから」

「やっぱり伊吹さんは話わかるなあ。でもあの記事は、事実を書いたんですよ。すぐわかる嘘書いても、最近の読者さんは騙されてくれないんで」

「ありがとう」


車関係のライターをしているのなら、伊吹さんと面識があるのは当然だ。

だけど。

私は気づいたらふらふらとその場を去っていたので、うまく辞去の挨拶をできたかわからなかった。

会場の外には、建屋を囲むように屋台が出ている。フランクフルトやアメリカンドッグなどの匂いを嗅ぎながら、ジャケットのポケットに手を突っ込んであてどもなく歩いた。

胸の中がざわざわと、不穏な音を立てている。

これだから恋愛は。




「おい?」


ふいに肩を掴まれて、びくっとした。

ぼんやりしていた私は、はっと我に返ってきょろきょろし、驚いた顔の伊吹さんと目が合う。


「あっ…すみません、なんでしょう」

「いや、今日、なにかおかしくないか、と思って」

「私ですか?」

「ほかに誰がいる」


場内はすでにお客様もはけ、がらんとしている。機械的に仕事をしただけの一日だった。情けない。
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