極上な彼の一途な独占欲
「大丈夫か、また具合でも悪いのか」

「違います、すみません」

「俺に謝ることはないが…」


片手にバインダーを持った伊吹さんが、わずかに眉根を寄せる。それは案じているようでもあり、怪訝そうでもあった。

視線から逃れたくて、なにかやることでもないかと周囲を探ったとき、マイクのスイッチが入る、あの音とも言えないような音がした。


『はい、それではみなさん、中央にお集まりください!』


両手でみんなを手招きしているのは、中山さんだ。終礼という雰囲気でもなく、私も伊吹さんもぽかんとした。


「なんだ…?」

「さあ…」


ぞろぞろとブースの真ん中に集まる面々を見ていると、事情を知っている人と知らずに首をかしげている人とが、どうやら半々くらいなのがわかる。

とりあえず私たちも中央に寄り、なにが始まるのかと思っていたら、どこから調達したのか、裏手からデザートワゴンがコロコロとスタッフに押されて登場した。

ワゴンの天面を埋め尽くすサイズの、チョコレート色の四角いケーキが載っている。


『伊吹さん、お誕生日おめでとうございます!』

「えっ、俺?」


私の隣で、伊吹さんが心底仰天したような声をあげた。

中山さんがワゴンのそばから、満面の笑みで手招きしている。周囲の拍手に若干気圧されている様子を見せつつ、伊吹さんは呼ばれた通り前に出た。


『おめでとうございます!』

「どうもありがとう」

『おいくつになります?』

「いや、書いてあるでしょ、31です」


伊吹さんが指さした通り、ケーキの上面にはでかでかと"31"とクリームで書かれた文字が躍っている。みんな笑った。
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