不器用な彼氏
『海成の心の中に、理香子さんが残っていたって、私の気持ちは変わらない』

言いながら、それは揺るぎようがないものだと、自信があった。

『正直、私だけ見てほしいけど、今は一番じゃなくても、いつか…』

続きのセリフは、不意に降ってきた海成の口づけで、言葉にすることができなかった。

あまりにも突然すぎて、目をつぶることさえできず、目の前には、いつか見たお台場の輝くような夜景とは対照的に、静かな月明かりに浮かぶ、蒼く幻想的なパノラマが広がっていた。

唐突に訪れた沈黙には、心地よい波のせせらぎだげが、耳に届く。
ゆっくり離れると同時に、耳元でささやかれる声。

『…ったく、少し落ち着け』

たった今、海成が触れた場所に、自分の指先を触れて、高鳴る心拍数を落ち着かせ、海成を見上げる。
彼の向こう側に、蒼く光る月。

『さっきも言ったが、今、俺の中には、お前しかいない…これは、嘘じゃねぇ』

花火大会からの帰る途中で言われた時と同じように、ぶれることなくじっと見つめられ、照れもせずハッキリと公言する海成から、目が離せなくなる。

『確かに、無責任な別れ方をした理香子のことは、どこかでずっと気にはなっていたが、お前とこうなってからは、今日会うまで、すっかり忘れてた』
『…』
『いや、理香子のことだけじゃ無え。いままで、どんな女と一緒にいたか、どんな風にしていたのかさえ、今はハッキリ思い出せない』

言いながら、海成の手が私の髪に伸び、輪郭をなぞりながらゆっくりと触れる。
ドキッ…まただ。触れた先から流れ込む想い。

その強い想いに、声が震えた。
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