不器用な彼氏
宿に戻り、照明の少し落とされフロント前の時計を見ると、もう数分で、日付が変わる時間だった。

『お風呂、寄る?』
『いや、俺は部屋の風呂で軽く汗流すだけでいい。…お前は?』
『…足の砂、落としたいし、少し汗かいちゃったから、軽く入ってから戻るね』

そう言うと、先程と同じように、そこで海成とは別れ、湯処のあるフロアへ向かう。

柔らかな絨毯の上を、湯処に向かう廊下を進むと、後ろから、エレベーターに消える直前の海成に、呼び止められ、『早く来いよ』と、一言。

何気ないその一言で、心臓が飛び跳ねる。

午前0時。

24時間入浴可能なこのホテルは、定期的に清掃もきちんとされているようで、汚れがちな脱衣所も清潔に保たれている。

さすがに、この時間、誰もいないだろうと、湯殿に入ると、初老のご婦人が一人、ちょうど入れ替わりで、湯から上がって出ていった。

これで、完全に貸切状態。
とはいえ、のんびり入浴している時間はない。

身体も髪もさっき洗ったのだけれど、しばらくの間、潮風に晒されていた為か、少しべとついた感じがして、ひとしきり、もう一度全身を洗う。

湯殿に備えつけられたボディソープは、大好きな柑橘系の香りがするオイル入りのもので、洗ったあとのしっとりすべすべ感も女性には嬉しい。

さっと流すと、先程浸かった露天には出ず、一番大きな内湯に浸かり、自分の身体に、温泉の効能を充分染み渡らせる。
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