不器用な彼氏
ちょうど角度的に砂浜は少ししか見えないのだけど、その先に広がる海は、遥か水平線まで良く見える。
空には、無数の星たち。

雲の切れ間に、月が見え隠れして、その度に、陰影が濃くなったり薄くなったり、不思議な現象を引き起こす。

『良かった…』
『ん?』
『ここに…戻ってこれて』

私にとっては、胸元よリ少し高い位置にある柵に手をかけて、ポツリとつぶやく。

『全くだ。お前の想像力には驚かされる』
『うっ…ごめん』
『だいたい、初めての女を、この俺がいつまでも引きずってるとか、どっからそんな発想が出てくるのか、謎だな』
『それは、お姉さんが…』
『姉貴?』

予想外すぎる人物の名前が出てきて、心底驚いた様子の海成が、ビールを飲む手を停めて、私を振り返る。

『この前、海成の家に行った時、お姉さんに聞いたの。海成が今まで知り会った女性に、誰にも名前を呼び捨てにさせていないのよって』
『…』
『お姉さん、理香子さんと海成のこと知らなかったから、恋人として許したのが、私が初めてだって思ったみたいで……私も、ちょっと舞い上がっちゃった』
『あのバカ、余計なことを…』
『でも、違ってたのよね。私なんかよりずっと前に、理香子さんに許してたんだよね?…だから、きっと海成にとって、理香子さんは特別なんだなって…』

考えてみれば、くだらないことだったのかもしれない。
そんなことで、やきもきして、今更ながら、恥ずかしくなる。

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