不器用な彼氏
『…海成も、緊張…してるの?』

その質問には回答なく、おもむろに大きな右手が、私の髪に触れ、その間に指を滑り込ますと、そのまま髪を梳くように、滑らしていく。

ゆっくりと、指通りを楽しむようにするその行為は、私の跳ねる心も一緒に、落ち着かせてくれるようだった。
相変わらず、心臓の鼓動は絶え間なく続いているけれど、なぜが、気持ちは凄く穏やかだった。

触れていた私の右手は解放され、髪を梳いていた手で、今度は私の左頬を優しく包み込む。
偶然か必然が、その人差し指が、私の耳たぶに触れ、ゾクリとして、思わず、短く声を上げてしまう。

海成は驚いたように、一瞬止まり、

『おい、まだ、何もしてねぇぞ…』
『や…ごめん、変な声出た…』
『…いや、悪くねえ』

恥ずかしさで、つい下を向きそうになるけれど、拘束された左の頬は包まれたまま、そっと触れるだけのキスを落とされる。

一瞬だけのフレンチキス。
離れてすぐ角度を変え、次のキスが落とされる。

先程のバルコニーでしたキスと違って、啄むようなキスが続く。
まるで、時間をかけて、私の唇の感触を、味わっているようだった。

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