不器用な彼氏
休日のお台場は、家族や友達、そして恋人達であふれている。天気は快晴。
絶好のデート日和。
最終の目的地である映画館までは、海沿いのデッキをゆっくり歩いていく。
本当は、お台場周辺にある、いくつかの暖かい商業施設の中で、ウィンドウショッピングでもしながら、ゆっくり歩きたいところだけど、彼の『人が多すぎる』という一言で、この寒い中、屋外のデッキを廻って、向かうことに。
土曜日ということもあり、海沿いのデッキもそれなりに人はいたが、この寒さのせいで、室内のそれとは、雲泥の差だ。
『あ~気持ちいいねぇ~』
海から来る風が、まだ冷たいけれど、日の当たる場所はポカポカして暖かい。デートだけれど、私達の暗黙のルールである、距離感を保ちつつ、彼に話しかけると
『いい歳して、はしゃぎすぎ』
と、ぴしゃり。
ムッ。
この寒い中、外を歩かされ、恋人と手を繋ぐことさえ許されない理不尽な状況を虐げられてるのに、その言い方はない。立ち止まり、前を歩く彼を呼び止める。
『進藤さん』
『あ?』
彼が、怪訝な顔をして、振り返る。
『進藤さんは、楽しくないんですか?私と一緒にいて』
『何だよ、いきなり』
『私は、すっごく楽しいです。寒くても、手ぇ繋げなくても、進藤さんとこうして一緒にいるだけで、すごく楽しいですよ』
一気にまくしたてる。だって、私だけが、一人浮かれてるみたいで、なんだか悔しいし。
『お前、よくそんな恥ずかしいこと言えるな』
『本当のことですから』
私は、プイと海辺の方へ顔をそむける。
『怒ってるのか?』
『怒ってませんよ』
『お前、いつも怒ると敬語になってるぞ』
『あ!』
気が付かなかった。無意識に、敬語になっちゃってる。彼は一呼吸つくと、
『俺が悪かった…だから敬語はやめてくれ』
珍しく謝ってくれる。『職場にいるみたいで、落ち着かない』とも。そう言うと、進行方向に向き直り
『…それに、楽しくないわけないだろう』
独り言のようにつぶやく彼。
『どんだけ今日を待ったと思ってるんだ』
怒り口調で言うそのセリフは、私にとっては綿菓子のように甘く、心を揺さぶる。後ろを向かれてしまったので、顔は見えないが、微かに見える耳がほんのり赤い。
全く、どうしてこの人はこんなにも不器用なのだろう?
『行くぞ。時間無くなる』
『カ…海(カイ)君』
意を決して、声に出してみると、彼は驚いたように立ち止まり、半身を向ける。
『は?』
『カイ君って呼んでもいい?』
ずっと、迷っていた。でも、職場の同僚としてではなく、恋人としての彼との距離を縮めたいから。
一瞬怒られるかと不安になる。彼は、黙ってまたゆっくり歩きだすと
『センス無ぇな』
『だって…いきなり呼び捨ては出来ないし…』
『…勝手にしろ』
『うん!』
“勝手にしろ”は了承の意味。また一歩近づけた気がして、頬が緩む。足早に彼の横に追いつき、つかず離れずの距離間で並んで歩く。
絶好のデート日和。
最終の目的地である映画館までは、海沿いのデッキをゆっくり歩いていく。
本当は、お台場周辺にある、いくつかの暖かい商業施設の中で、ウィンドウショッピングでもしながら、ゆっくり歩きたいところだけど、彼の『人が多すぎる』という一言で、この寒い中、屋外のデッキを廻って、向かうことに。
土曜日ということもあり、海沿いのデッキもそれなりに人はいたが、この寒さのせいで、室内のそれとは、雲泥の差だ。
『あ~気持ちいいねぇ~』
海から来る風が、まだ冷たいけれど、日の当たる場所はポカポカして暖かい。デートだけれど、私達の暗黙のルールである、距離感を保ちつつ、彼に話しかけると
『いい歳して、はしゃぎすぎ』
と、ぴしゃり。
ムッ。
この寒い中、外を歩かされ、恋人と手を繋ぐことさえ許されない理不尽な状況を虐げられてるのに、その言い方はない。立ち止まり、前を歩く彼を呼び止める。
『進藤さん』
『あ?』
彼が、怪訝な顔をして、振り返る。
『進藤さんは、楽しくないんですか?私と一緒にいて』
『何だよ、いきなり』
『私は、すっごく楽しいです。寒くても、手ぇ繋げなくても、進藤さんとこうして一緒にいるだけで、すごく楽しいですよ』
一気にまくしたてる。だって、私だけが、一人浮かれてるみたいで、なんだか悔しいし。
『お前、よくそんな恥ずかしいこと言えるな』
『本当のことですから』
私は、プイと海辺の方へ顔をそむける。
『怒ってるのか?』
『怒ってませんよ』
『お前、いつも怒ると敬語になってるぞ』
『あ!』
気が付かなかった。無意識に、敬語になっちゃってる。彼は一呼吸つくと、
『俺が悪かった…だから敬語はやめてくれ』
珍しく謝ってくれる。『職場にいるみたいで、落ち着かない』とも。そう言うと、進行方向に向き直り
『…それに、楽しくないわけないだろう』
独り言のようにつぶやく彼。
『どんだけ今日を待ったと思ってるんだ』
怒り口調で言うそのセリフは、私にとっては綿菓子のように甘く、心を揺さぶる。後ろを向かれてしまったので、顔は見えないが、微かに見える耳がほんのり赤い。
全く、どうしてこの人はこんなにも不器用なのだろう?
『行くぞ。時間無くなる』
『カ…海(カイ)君』
意を決して、声に出してみると、彼は驚いたように立ち止まり、半身を向ける。
『は?』
『カイ君って呼んでもいい?』
ずっと、迷っていた。でも、職場の同僚としてではなく、恋人としての彼との距離を縮めたいから。
一瞬怒られるかと不安になる。彼は、黙ってまたゆっくり歩きだすと
『センス無ぇな』
『だって…いきなり呼び捨ては出来ないし…』
『…勝手にしろ』
『うん!』
“勝手にしろ”は了承の意味。また一歩近づけた気がして、頬が緩む。足早に彼の横に追いつき、つかず離れずの距離間で並んで歩く。