副社長は甘くて強引

「ありがとうございました」

「いや。うまく乾かせたと思うが、気に入らなかったら自分で手直して」

「はい」

 その場から立ち上がるとドレッサーに向かう。

 ふんわりヘアの私が鏡に映る。ついさっきまでボサボサだった髪型が嘘のようにまとまっている。

「どう? 俺は上デキだと思うけど」

 副社長は腰を屈めると、私の背後から鏡を覗き込む。

 鏡の前で顔を寄せ合う私たちの姿は、仲睦まじい恋人のように見える。でも私と彼はそんな関係ではない。

「副社長、私クビですか?」

 今になって、副社長がウチに訪ねてきた理由を尋ねる。

「は?」

「私、年が明けてから販売成績伸びてないし……」

 横浜のレストランで『社員教育は二度ない』と、副社長に言われた。だから私がまた最下位になったときは、クビが確定するということになる。この調子でいくと、今月の販売成績は最下位になってしまう可能性が高い。

 自分が情けなくて、鏡から視線を落とす。すると彼の手が伸びてきて、右手を握られた。

「俺がプレゼントした指輪を勝手にはずすからだ」

「だって……」

 フォーエバーハートの指輪を自らはずしたのは、副社長のことを忘れるため。でも指輪をはずしたからといって、彼のことを忘れるなんてできなかった。

 私は今でも、彼のことが好き……。

 触れ合っている手から伝わる副社長の温もりを感じながら、彼への思いを再認識した。

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