副社長は甘くて強引
彼がケースの蓋を開ける。そして中に入っていた赤い石をつまむと、私の手のひらにそれをコロンとのせた。深い赤色をしたその石はカット処理がされておらず、デコボコといびつな形をしている。
これでも私はハートジュエリーの販売スタッフ。この石の正体がなんなのか、見当はつく。
「これってルビーの原石ですよね」
「ああ、そうだ。タイで良質なルビーの原石を仕入れることができた。これをカットしてネックレスにしようと思っているが、どうかな?」
どうかな?と聞かれても困る。だって販売成績最下位から脱出したのは前回だけ。今月はまた最下位になりそうだし、こんな高価なご褒美をもらうわけにはいかない。
「私には贅沢すぎます」
ルビーの原石を彼に返す。
「もしかして今月の販売成績を気にしているのかな?」
「……」
彼の鋭い指摘にコクリとうなずく。
「それならこうしよう。今月の販売成績が最下位だったら、このご褒美はおあずけだ。最下位を免れたなら原石をカットしてネックレスにする。これでいいだろ?」
「……はい。ありがとうございます」
副社長の好意を素直に受け入れることに決めたのは、遠慮する私に気遣いを見せてくれた彼の優しさがうれしかったから。それに豪華なご褒美に気後れしている場合じゃない。私がしなければならないのは、販売成績を伸ばすことだ。