副社長は甘くて強引
彼はルビーの原石を親指と人差し指でつまむ。そして軽く手を掲げると、自分の指先にあるルビーの原石をじっと見つめる。
「タイに出発する前。五年前からキミのことが気になっていたと言ったが、覚えているかな?」
「はい。もちろん」
副社長の口から飛び出した衝撃的な言葉は、今でも忘れられない。
「あのパーティーで赤いドレスを着たキミを見たとき、ルビーの原石のような娘だと思ったんだ」
「ルビーの原石?」
「ああ。磨けば綺麗な輝きを放つだろうな、と……」
「……っ!」
彼の指先にあるルビーの原石は、窓の外から差込む日の光を受けても鮮やかな光を発することはない。宝石の原石はカット処理をされて、初めてまぶしい光を放つのだ。
私のことをルビーの原石にたとえるなんて、ジュエリー会社の副社長らしい。
「俺の目に狂いはなかった。少しアドバイスしただけで販売成績も上がったし、なにより綺麗になった」
社員教育だと言って連れ出された日を境に、私はたしかに変わった。身なりに気をつけるようになったし、販売成績も伸びた。でも綺麗になったという自信はない。
「私、綺麗じゃないです。今日なんか髪の毛はボサボサだったし、スッピンだし……」
自虐的な私の言葉を聞いた彼がクスクスと笑う。
「そうだな。風呂にも入っていなかったしな」
「それは、昨日いろいろとあったから……」