副社長は甘くて強引

 彼はルビーの原石をケースに入れるとジャケットのポケットにしまう。そして、その大きな手で私の頬を優しく包み込む。

「たくさん泣いたんだろ?」

「だって、あんな場面を副社長に見られたから……」

 私が言う『あんな場面』とは、もちろん佐川にキスされたときのことだ。思い出すだけで胸が鈍く痛む。

「佐川から伝言だ。昨日は悪かった。副社長と幸せになれ。だそうだ」

「佐川がそんなことを?」

「まあな」

「そうですか……」

 佐川は自ら身を引き、私の幸せを願ってくれている。だから私も昨日のことは事故だと思うことにしよう。佐川は同期。それ以上でもそれ以下でもない……。

 自分を納得させていると、私の頬を包み込んでいた彼の手が顎先に移動する。

「佐川のことを考えていたのか?」

「えっ?」

 彼の指先に力がこもり、クイッと顔が上向く。

「アイツのキスなんか俺が忘れさせてやる」

「……っん」

 少しイラついた彼の声とともに、瞬く間に唇を奪われる。徐々に激しさを増していくキスに息が乱れ始めた。

 彼の言う通り、佐川のキスはもう思い出さない。

「京香……」

 唇を離した彼は吐息交じりに私の名前を漏らす。

「……直哉さん」

 私も思いを込めて彼の名前を口にしたものの、なんだか照れくさくて思わず瞳を伏せた。

 すると彼が脱いだジャケットが床の上に落ちる。

< 112 / 116 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop