副社長は甘くて強引
彼はルビーの原石をケースに入れるとジャケットのポケットにしまう。そして、その大きな手で私の頬を優しく包み込む。
「たくさん泣いたんだろ?」
「だって、あんな場面を副社長に見られたから……」
私が言う『あんな場面』とは、もちろん佐川にキスされたときのことだ。思い出すだけで胸が鈍く痛む。
「佐川から伝言だ。昨日は悪かった。副社長と幸せになれ。だそうだ」
「佐川がそんなことを?」
「まあな」
「そうですか……」
佐川は自ら身を引き、私の幸せを願ってくれている。だから私も昨日のことは事故だと思うことにしよう。佐川は同期。それ以上でもそれ以下でもない……。
自分を納得させていると、私の頬を包み込んでいた彼の手が顎先に移動する。
「佐川のことを考えていたのか?」
「えっ?」
彼の指先に力がこもり、クイッと顔が上向く。
「アイツのキスなんか俺が忘れさせてやる」
「……っん」
少しイラついた彼の声とともに、瞬く間に唇を奪われる。徐々に激しさを増していくキスに息が乱れ始めた。
彼の言う通り、佐川のキスはもう思い出さない。
「京香……」
唇を離した彼は吐息交じりに私の名前を漏らす。
「……直哉さん」
私も思いを込めて彼の名前を口にしたものの、なんだか照れくさくて思わず瞳を伏せた。
すると彼が脱いだジャケットが床の上に落ちる。