副社長は甘くて強引

 余裕を見せつける彼を軽く睨みつける。

「……変なこと言ってないで、早く出てください!」

「はい、はい」

 彼はベッドから降りると、床に落としたジャケットを拾う。そして内ポケットからスマートフォンを取り出すと、通話ボタンを押す。

「もしもし、俺だ」

 スマートフォンを耳にあてた彼は私に背中を向ける。その隙に体を起すと、乱れた服と髪の毛を整えた。

 彼の口から出るのは「ああ」「そうか」などという短い言葉だけ。でもその冷静な対応を見れば仕事絡みの会話だとすぐにわかる。

 仕事を中断して、私のもとに駆けつけてくれたのかもしれない……。

 申し訳ない気持ちが胸に広がった。

「わかった。今から戻る」

 彼は最後にそう言うと、通話を切った。

「会社に戻るんですか?」

 ベッドから立ち上がると、ジャケットの袖に腕を通す彼に尋ねる。

「ああ、すまない。この埋め合わせは必ずする」

「いいえ。気にしないでください」

 ハートジュエリーの副社長である彼の負担にはなりたくない。ただそう思っただけなのに、彼の眉間にシワが寄る。

「気にするな? 俺は今日もおあずけをくらって内心穏やかじゃない。京香はどうなのかな?」

 彼によって覚醒された体は、まだほんのりと熱を帯びている。残念じゃないといったら嘘になる。

「……直哉さんともっと一緒にいたかったです」

 恥ずかしい気持ちを堪えながら本音を口にする。

< 114 / 116 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop