副社長は甘くて強引
* * *
〜五年前〜
「なあ、頼むよ。この通りっ」
陽斗のお兄さんである悠斗(ゆうと)さんが、私たちに向かって両手を合わせる。
「嫌だよ。兄貴ひとりで行けばいいだろ」
「ほら、ここよく読んでみろよ。パートナー同伴でお越しくださいって書いてあるだろう」
お兄さんが差し出した招待状を陽斗が受け取る。横から招待状を覗いてみると、たしかにそのような文言が記載されていた。
「彼女を誘えよ」
「彼女がいたら京香ちゃんに頼むわけないだろ。アホだな」
「アホとはなんだよ! ああ、もう絶対に京香は貸さねえからなっ!」
一触即発。お兄さんと陽斗の間に見えない火花がバチバチと音を立てる様子は、ハラハラして心臓に悪い。
こんなことになったのは、お兄さんの大学時代の友人、樋口直哉さんという人から届いた招待状が原因。
経緯はこうだ。
樋口さんの三十歳の誕生日パーティーに、陽斗のお兄さんが招待された。お兄さんは友人の樋口さんをお祝いしたい。けれどパートナー同伴がパーティー参加の条件。日本ではなじみが浅いけれど、外国ではよくある習慣らしい。
残念ながら今現在、お兄さんには彼女がいない。そこで弟の陽斗の彼女である私に、白羽の矢が立ったのだ。
「陽斗、私、そのパーティーに行ってみたい。だって有名ホテルの豪華な料理がタダで食べられるんでしょ?」
「京香……オマエって本当に食いしん坊だな」
「そうかな」
陽斗があきれ顔を浮かべる。
有名ホテルの料理を食べてみたいのは本当。でもお兄さんのパートナーを引き受けようと思った一番の理由は、もうふたりに言い争ってほしくないから。
「まあ、兄貴が一緒なら安心か。それに今の俺じゃ、そのホテルの食事を京香にごちそうしてやる金もないしな」
「陽斗……」
陽斗の優しさがうれしい。お互いの瞳を熱く見つめ合っていると……。
「あのさ、俺の存在を忘れて、ふたりの世界に引きこもらないでくれない?」
お兄さんにツッコミを入れられてしまい、慌てて視線を逸らした。