副社長は甘くて強引

「は、はじめまして。大橋京香です」

 しどろもどろになりつつ挨拶をすると、樋口さんがお兄さんに尋ねる。

「悠斗、オマエの彼女かな?」

「いや、京香ちゃんは残念ながら陽斗の彼女なんだ。今、俺には彼女はいない」

 お兄さんの答えを聞いた樋口さんの瞳がやわらかい弧を描く。

「そうか。陽斗にはもったいないくらい、かわいらしいお嬢さんだ」

「そ、そんな……」

 これは社交辞令。そうわかっていても、頬が勝手に熱くなってしまう。私を見つめる樋口さんの優しいまなざしが恥ずかしい。

「京香さん、楽しんでいってください」

「はい。ありがとうございます」

 おいしい料理につられてお兄さんのパートナー役を引き受けただけの私に、樋口さんは気軽に話しかけてくれる。その気遣いがうれしくて、口もとが緩むのを実感した。

「悠斗、今度ゆっくり会おう」

「ああ」

 お兄さんの肩をポンと軽く叩いた樋口さんが、この場から離れる。

 彼は常に落ち着きがあって、大人の余裕が感じられる。大学生の私の周りにはいないタイプの樋口さんを前に、さっきから胸の高鳴りが止まらない。

「素敵な方ですね」

「まあな。もしかして京香ちゃん、直哉に惚れちゃった?」

「ま、まさかっ!」

 樋口さんはたしかに魅力的な男性だ。でも私には陽斗というかっこいい彼氏がいるし、そもそも樋口さんが平凡な女子学生の私のことを気にかけるわけがない。

 まだドキドキと音を立てる鼓動をごまかすように、お皿に取り分けた料理を口に運んだ。

 * * *

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