副社長は甘くて強引
陽斗からもらった指輪はまだはずせないでいる。一ヶ月という月日が経っても陽斗への未練を簡単に断ち切ることなどできない。
副社長から視線を逸らすと、私の腰に回っていた彼の腕がようやく離れていった。私たちの間に距離ができ、ホッと胸をなで下ろす。
「そうだったのか。なにも知らなかったとはいえ無神経な質問をしてしまってすまない」
副社長という立場の彼が、ただの販売スタッフである私に謝るなんて……。
「い、いえ」
慌てて首を左右に振った。そんな私を見つめる彼の瞳が、やわらかい弧を描く。
「もう仕事は終わったんだろ?」
「はい」
副社長がエレベーターのボタンを押すと、ドアが開く。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
ドアに軽く手を添えてくれる副社長にお礼を言うと、エレベーターに乗り込む。
「お疲れさま。気をつけて帰ってね」
「はい。お先に失礼します」
更衣室のある五階のボタンを押すとエレベーターのドアが閉まる。透明なガラスドア越しに見える副社長に頭を下げるとエレベーターが静かに上昇を始めた。
ああ、ビックリした。でも副社長ってイケメンな上に性格がいいんだ……。
ひとりになったエレベーター内で副社長とのやり取りを思い返しながら、五年前と同じようにドキドキと音を立てる自分の胸にそっと手をあてた。