副社長は甘くて強引

 約束の午後二時を五分過ぎたとき、スマートフォンが音を立てる。着信履歴を登録したため、スマートフォンの画面には〝樋口副社長〟と表示されている。もうこれで『俺だ』と言われても、相手が誰なのかすぐにわかるから安心だ。

「もしもし」

『俺だ。到着したから下まで降りてくるように』

「はい、わかりました」

 相変わらず自分の名前を告げない副社長が腹立たしい。ムカムカする気持ちを堪えながら通話を切ると、玄関に向かった。

 マンションのエントランスホールを抜けて外に出る。するとそこには、路肩に止めたスポーツタイプの車に寄りかかっている副社長の姿があった。

 紺色のテーラードジャケットにブルーのストライプシャツ、グレーのスラックス。彼は スラリとした長い足をクロスさせて、左手をスラックスのポケットに入れている。

 まるでファッション雑誌から抜け出たようなスタイリッシュな彼の容姿は、道行く人が思わず振り返ってしまうほど美しい。

 それに比べて私の格好はというと、ベージュのパンツに白いブラウス、ピンクのカーディガンを羽織っただけというラフなスタイル。髪の毛はいつものように、バレッタでひとつに束ねている。

 ウチに戻って着替え直したほうがいいのかな。でもハートジュエリーの副社長に釣り合うような上品な服など持っていない。

 どうしよう……。

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