副社長は甘くて強引

「副社長、これからどこへ行くんですか?」

 今日の予定についてなにも知らないままでは不安だ。ハンドルを握る彼の横顔を見つめながら尋ねる。

「横浜に直行しようと思っていたが、キミのせいで急きょ変更することにした」

「私のせい?」

 意味がわからず首を傾げると、目の前の信号が赤になる。彼がブレーキをかけると車がゆっくりと止まった。

「まさかそんな普段着で俺の前に現れるとは思っていなかったからね」

「……っ!」

 前方を見据えていた彼の視線が私に向けられる。そして彼の黒い瞳が、私の爪先から頭へとゆっくり移動した。

「キミには俺の隣に並んでも恥ずかしくない格好をしてもらう」

「……」

 人を値踏みするような彼の視線に耐えられず、思わず目を伏せる。

 たしかに私の今日の格好は、ハートジュエリーの副社長である彼とは釣り合わない。でも私のことを見くだすような彼の発言には納得いかない。

 やっぱり、この人苦手だ……。

 膝の上にのせたバッグの持ち手をギュッと握った。

 信号が青になり、副社長が車を発進させる。

 これからどこへ行くのか、横浜でなにをするのか、いつになったら指輪を返してくれるのか、聞きたいことはたくさんある。しかし彼に話しかけて、また不愉快な気持ちになるかもしれない。

 だから私は口を貝のように固く閉じると、助手席の窓の外に流れゆく景色を見つめ続けるしかなかった。

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