御曹司と愛されふたり暮らし

「じゃ、行ってきます」

玄関で靴を履き終え、彼は振り向いて私にそう言う。私ももう少ししたら会社に向かうのだけれど。


「行ってらっしゃい」

笑顔でそう言うと、彼は私に背を向ける。


……が、なぜかまた振り返って、私を見る。



「どうかした? 忘れもの?」

私がそう尋ねると。


「うん」

と彼は答えて、私にちょいちょいと右手で手招きする。


「?」

なんだかよくわからないけど、そのまま彼に近づくと。

私を手招いていた彼の右手が私の前髪をサラッとどかし、チュ……と、彼の唇が私のおでこに触れた。


「!!?」

「ハハ、じゃ、今度こそ行ってきます」

動揺して言葉を発することすらままならない私を放って、彼は玄関を出ていった。


玄関の戸が閉まり、完全にひとりになった玄関先で、私は心の中で「うわあぁぁぁ」と叫びながらうずくまる。


恥ずかしい恥ずかしい!!

……でも、うれしさを感じている自分もいて。


いけないいけない。こんなところでうずくまって動揺している場合じゃない。私も出勤する支度を始めなきゃ。

そう思い直し、自室へ向かいながら、私はさっきのハルくんの言葉を思い出す。


『お互い恋愛初心者だな』

私は確かに、間違いなく恋愛初心者だ。
ハルくんはそれなりにいろんな経験はあるだろう。でも、彼も、恋愛感情に疎いのは事実だろう。ただでさえちょっと鈍感だし……。


それならば、もっとガツンと、がんばって思い切って彼にアピールした方がいいのだろうか? その方が伝わりやすい気がする。

大丈夫、自信持って堂々とアピールすればきっと……って、アピールってそもそもなにをどうすればいいんだろう? したことないからわからない……。




……あ、仕事行かなきゃ。
< 107 / 180 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop