御曹司と愛されふたり暮らし
それからの何日間は、ハルくんが言っていた通り、彼は出張で留守にすることや、それでなくても帰りが遅くて一緒にお夕飯を食べられない日が何日か続いた。
一緒に過ごせないのは残念だけど、それを嘆いても仕方がないし、なにより、ハルくんの留守中に、チョコの完成度を上げる練習をしなければ!と奮闘していた。
それもあってか、思ったほど「一緒に過ごせる時間が少なくて寂しい」と感じることもなく、あっという間にバレンタイン当日を迎えた。
さっきから、そわそわと何度も腕時計を確認してしまう。
今は十六時。あと一時間で上がれる。
ハルくんは今日はそろそろ会社を出た頃かもしれない。
今日は、私の仕事が終わったあと、駅で待ち合わせをして、ハルくんのオススメの洋食レストランに一緒に行くことになっている(この間のリベンジとして中華を食べに行く案もあったけど、バレンタインデーなのでなんとなく中華ではなく洋食を選んだ)。
待ち合わせは十七時半だから、定時で仕事上がって、しっかり身支度を整えて、髪も簡単にだけどセットして、メイク直しをしても時間は余裕だ。
と、私が頭の中でハルくんとのデートのためのタイムスケジュールを組み立てていると……。
「戸山さん、ちょっといい?」
同じ事務課で働く、私の二期上の橋上(はしがみ)さんが私のデスクまでやってきた。
「はい。なんですか?」
「悪いんだけど、今日の五時過ぎ、なにか用事ある?」
「え?」
思わず、あります、と即答しそうになってしまったけれど、橋上さんの表情はなにやら深刻そうだ。仕事の話かもしれないので、「なにかありましたか?」と聞いてみる。すると。
「この間うちで作った新商品のカタログ、取引先の西町文具店さんでぜひ持ってきてほしいって言われててね。せっかくだから、戸山さんとか瑞樹ちゃんとか、ほかの子も誘って営業かけてこいって課長にも言われていて」
「え、でもそれなら明日でもいいんじゃ……」
「明日からしばらく先方が都合悪いらしいのよ。善は急げって言うし。これがキッカケで新商品の売り上げが伸びたら私たちのお手柄よ!」
う、うーん、確かに。
営業に行っていたらハルくんとの約束には確実に間に合わない……けど、だからって仕事を放るわけにはいかない。
「わかりました。五時過ぎ、用意しておきます」
「急にごめんなさいね。なにか用事とかなかった?」
「約束があったんですけど、電話入れておけば大丈夫なので。ちょっと失礼します」
そう言って私は、携帯を持っていったん事務室の外へと出た。