御曹司と愛されふたり暮らし
「へぇ。じゃあ、キッカケとしては、遥貴が強引に花菜ちゃんのこと、このマンションに連れこんだわけだ」
リビングのソファに深く腰かけて、彼はどこか楽しそうに口の端をつりあげてそう言った。
「連れこんだって、人聞きの悪い」
「そ、そうだよ。それに今は、同意のもとで同居しているわけで……」
斜め横のサイドソファにふたり並んで、私とハルくんは彼の言葉をやんわりと否定した。
――彼は、やっぱりハルくんの弟の、矢上 唯くんで間違いなかった。
サラサラとした真っ黒な髪は艶やかで、前髪が少し長いようだけど、昔から変わらない整った顔立ち。
やっぱり、成長してもハルくんとは似ていない。
でも、こうしてわざわざ休日に家を訪ねてくるくらいだ。きっとハルくんのことが大好きなのだろう。
「それにしても」
唯くんが、人懐っこい笑顔を私に向けて、口を開く。
「まさか遥貴が本当に同棲してて、その相手が花菜ちゃんだとはねーっ! 花菜ちゃん、俺のことほんとに覚えてる?」
にこっとかわいらしい笑顔を向ける唯くんは、なんだか昔のままだ。
そういえば、ハルくんも笑った顔は昔となんら変わりないっけ。そこは兄弟だからなのかな。
「もちろん覚えてるよ。昔、たまに三人で遊んだよね。偶然にも、さっきまでちょうど唯くんの話してたところだったんだ」
「マジ? うれしいなー。花菜ちゃんは昔と変わらないねー。あ、ほんわかしててかわいらしい雰囲気が変わらないっていう意味で、昔よりずっと美人になったよねー」
「もう。絶対思ってないでしょ。でも、唯くんもカッコ良くなったね」
「あはは。でしょー。俺、こう見えてモデルやってるんだよー」
「え、そうなの!? すごい!」
「唯」
私と唯くんの会話の途中で、ハルくんが彼の名前を呼んだ。しまった、唯くんはハルくんに会いに来たのに、つい私が話しすぎてしまった。私は慌てて口を閉じ、なんとなく姿勢を正した。
「もう用は済んだろ? そのコーヒー飲んだらさっさと帰れ」
少し冷たくそう言い放つハルくんは、まるで唯くんを拒絶しているかのよう。
どうして? 唯くんはハルくんを慕っているのではないだろうか。
「冷たいね、遥貴は。昔、言い寄って来る周りの女の子たちにはみーんな平等にやさしくしてたクセに」
え……?
突然のその発言に、私の胸が急にざわついた。