御曹司と愛されふたり暮らし
「え?」

「ついてきて」

彼はスッと立ち上がり、リビングの外へと出ていく。
私も慌てて彼についていくと、彼は自分の部屋へと入っていった。

えっと、入っていいのかな? でも、ついてきてって言われたし。


おじゃまします、と小さな声で言いながら彼のお部屋へと入ると。


「ピアノ……!」

そこにあったのは、真っ黒な光沢を放つピアノだった。


知らなかった。この部屋にピアノがあったなんて。全体のお掃除は私がさせてもらっているけれど、彼のお部屋には今まで一度も入ったことがなかったから。


「実家から小さいサイズのピアノ持ってきたんだ。こまめに弾かないと腕がなまりそうだからな」

ふとピアノの隣に置いてある小さなサイドテーブルに目を向けると、ヘッドホンが置いてあった。きっと今までも、音が漏れないようにしながらたまに弾いていたんだろうな。


「ま、腕がなまるなんて偉そうなこと言ってるけど、本当に別に大して上手くないぜ。趣味で弾き続けてるだけだ」

「で、でも! 聴いてみたい!」

「じゃ、座って」

彼はそう言って、サイドテーブルの下から丸椅子を引っ張り出し、ピアノの斜め後ろに置いた。

お言葉に甘えて、私はそこに腰をおろす。


「なに弾くかな。花菜、好きな音楽家とかいる?」

「えっ、ごめん全然わかんない」

「じゃあ俺のチョイスで」

彼はそう言って、鍵盤に両手を置いた。

そして次の瞬間、キレイな音色が部屋に流れ始め、心を持っていかれそうになった。
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