11時30分に解ける魔法
 夢……。

 私は部屋の中を見回した。

「そういえば、私が投げ捨てた花も、叩き割ったグラスもないわ」

 添真は、
「あれのことか」
と離れた位置にある大きなテーブルを指差す。

 そこには、シャンパンクーラーと呑んだあとのあるグラスが二つあった。

「狐につままれた気分だわ」
と言って、莉音は添真の斜め前、窓に向かって置いてある、アンティークな布張りの椅子に腰掛けた。

「そういえば、私、このホテルの庭にある、『なんでも願いが叶う泉』とやらに45円投げたんだったわ」
と言うと、

「なんで、45円だ」
と訊いてくる。

「始終ご縁がありますように」
「……強欲だな」

 俺以外の縁がいるということか、と言ってくる。

 それを無視して、莉音は言った。
< 3 / 14 >

この作品をシェア

pagetop