男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました

バルドン公爵が息を整える間、殿下は黙っているだけだった。

重たい沈黙が謁見の間を満たし、壁際に立っているだけの私まで居心地の悪さを感じてしまう。

かなり時間を空けてから、殿下はおもむろに立ち上がり、バルドン公爵に近づいて行くと目の前で足を止めた。


バルドン公爵は私と大して身長が変わらない。

大公殿下との身長差はリンゴふたつ分ほどもあり、上から威圧的に見下ろされては、先ほどの勢いは消えてしまった。

殿下は睨むようにして、冷たい声ではっきりと断りを入れる。


「エリーヌを妻にはしない。伴侶にしたい女が他にいる。時期を見て叔父上にも紹介しよう」


伴侶にしたい女って、まさか……。

会話に参加していない私の顔が瞬時に熱くなり、動悸が始まった。

正体がバレたあの日、殿下は私が女でよかったと驚くことを口にした。

その理由は、自分が男色だったのかと、思い悩んでいたからと。

そんな思わせ振りな言葉や額へのキスに、思わずピンクのバラの花園を見た私だったが、こんな私が見初められるはずがないと言い聞かせて、今日に至る。

恐らく殿下は、愛玩犬か猫のように、私を可愛がってくださるだけだ。

今もそのことを思い返し、勘違いの期待をしないようにと自分を戒め、早まる鼓動をどうにか落ち着かせていた。


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