男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
「ああ、帽子が……」
泣きそうな顔を見ると、どうやらお気に入りの帽子だったみたい。
私はオールを漕いで、睡蓮の花の咲く方へとボートを近づけていく。
水面に広がる葉の中に分け入ろうとしたら、リリィに止められた。
「ステファン、やめて! 帽子は諦める。睡蓮を傷めたくないの」
ここから奥まで、大きく平らな葉が、水面を埋めるかのように広がっている。
葉や花を傷つけないようにボートで進むのは無理だった。
お気に入りの帽子より、睡蓮を心配するリリィは優しい子。
しかし、その目はやっぱり帽子に向いていて、殿下と同じ青い瞳が悲しそうだった。
「リリィ、この剣を預かっていてもらえますか」
腰の剣を鞘ごと外して、リリィに手渡す私。
受け取りながらも首を傾げるリリィの前で、私はボートを揺らさないように気をつけながら、ザブンと池に飛び込んだ。
「ステファン!?」
「泳いで取ってきます。待っていて」
青の衣は水を吸って動きにくいけれど、なんとか体を前に進め、睡蓮群の中に分け入っていく。
葉の上で鳴いていた青蛙が驚いて飛んでいき、葉の陰に隠れていた小魚も逃げ出した。