男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
エリーヌ嬢が自信に満ちた笑みを浮かべて、殿下を誘う。
「今宵のダンスのお相手を、わたくしに務めさせて下さいませ」
エドガーのお姉さんは一曲の相手を願い出ていたけれど、エリーヌ嬢は殿下を独占する気のようだ。
この宴はバルドン家の舞踏会で、主役はエリーヌ嬢。他のご令嬢方は遠慮しなさいと言うように……。
隣にいるエドガーが、「姉上、お可哀想に」と呟くから、気持ちが逸れた。
エドガーの背中を撫でて慰めていると、バルドン公爵が高らかに声を上げた。
「さあ皆さん、ダンスを楽しみましょう。音楽を!」
ホールの一角には、バルドン家が雇った楽団が待機していて、公爵の言葉を合図にワルツを奏で始めた。
ピアノと弦楽器が作り出す明るい曲に乗り、男女のペアになった貴族たちが、ホールの中程に進み出て踊り出した。
「殿下もどうぞ。エリーヌとダンスをお楽しみ下され」
バルドン公爵がそう言うと、エリーヌ嬢が殿下の腕に手を絡ませようとしている。
殿下は顔をしかめているが、拒否を口にすることはなく、避けようともしていない。
私はナイフで刺されたような鋭い痛みを胸に感じて、ふたりを視界に入れないように、急いで背を向けた。