男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
実家で、兄と共に両親に特訓されたときがあった。
教えられたのはもちろん女性用のステップ。
もう二、三年も前のことになるので、ちゃんと覚えているかは自信がない。
殿下の左手が私の右手を取り、もう一方の手は背中に回された。
殿下が一歩踏み出すと、それに合わせて私の足も勝手に動き、曲に乗って踊り出した。
ちゃんと体がステップを覚えているみたい。
よかった……いや、これはよくない。
周囲の目が私たちに集中していることに気づき、ヒヤリとしていた。
『殿下が男色という噂は本当なのか』という、ひそひそ声が耳に届くし、『あの少年は、なぜ女性のステップが踏めるのか』という疑問の声も聞こえてくる。
背中に冷や汗が流れ落ち、私は恐る恐る殿下に意見した。
「わた……いえ、僕と踊られるのは、色々と問題があるのでは……」
ステップを踏みながら周囲を見渡し、そう言うと、私の背中に回された殿下の右手に力が込められ、胸がくっつくほどに体の距離が縮まった。
「俺にエリーヌと踊れと言うのか?
お前はそれでいいのか?」
いいのかと言われたら、よくないけど……。