男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
殿下はバルドン公爵を疑っているが、本当は信じたいんだ……。
それを聞かされると、私の中の怒りは萎んでしまい、後にはモヤモヤとした不快感が残された。
バルドン公爵は前大公の右腕として活躍していたと、確か殿下は言っていた。自分に政務を教えてくれたのも公爵だと。
昔はよくしてくれた叔父だから、信じたいという気持ちも分かる気がする。
殿下はふたつの気持ちの狭間で、苦しんでいるということなのか……。
同情して肩を落とした私に、クロードさんは「しかし」と語気を強めた。
「今のアミルの中には、不信感のほうが大きいようです。公爵がしつこくエリーヌ嬢を勧めてくるのは、自分の孫を次期大公にしたいため。バルドン家の力をさらに高めたいのです。
エリーヌ嬢は二十歳になられます。お年頃の内に、早く殿下に結婚を決めさせようと、焦っているのかもしれません」
「そのために、邪視騒ぎを利用するなんて……」
「利用するというより、どこかから探し出して連れてきたのでしょうね。邪視の少年はきっとバルドン公爵がどこかに匿っている。アミルはそう考えているのだと思います。バルドン家を見張らせると言ってましたから」
ということは、都で起きている変死騒ぎは、バルドン公爵の命令で、誰かが起こしているということだ。
なんの罪もない人を殺してまで、娘を大公妃にしたいというのか……。
「許せない」と呟くと、「あくまでも仮定の話です」と言われた。
「アミルは七年前の未熟だったときとは違います。今回はきっと上手く、邪視の件を収めることができるでしょう。
ですからステファニー様は、勝手なことをなさらないように。バルドン公爵に斬りかかっていったらいけませんよ?」
最後は冗談めかして注意して、クスリと笑ったクロードさん。
私は無意識に掴んでいた剣の柄から、慌てて手を離した。
もし七年前も今も、全ての黒幕がバルドン公爵だったとしたら……斬りかかりはしないけれど、噛みつきたいくらいの気持ちはある。
殿下に迷惑をかけないように、なるべく我慢しようと思うけれど……。