男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
足を踏み鳴らして歩く公爵を追うように、殿下も廊下に姿を現わす。
私は心臓をバクつかせながら、二人の後ろ姿を覗き見ていた。
「これで終わらせはしない。逃げ切れると思うなよ!」
怒りに満ちた声で殿下がそう言うと、バルドン公爵は足を止めて振り向いた。
赤ら顔をしているのは、公爵も、かなりの怒りの中にいるからだろう。
「ワシは知らんと言っておるだろうが!
最近の殿下はおかしいぞ。一体、なにに毒された」
「毒されたのではなく、やっと解毒されたのだ。バルドンという毒からな。
もう叔父上とは思わん。必ず証拠を上げて処罰を下してやる。覚悟しておけ」
それは、甥から叔父に突きつけた、決別宣言のように聞こえた。
厳しい口調でハッキリと敵意を口にした殿下に、バルドン公爵は歯ぎしりしてから呟いた。
「後ろ盾となり、今日まで支えてやったというのに、恩を仇で返す気か……」
公爵は殿下に背を向けて、歩き出す。
しかし、二歩進んだところで思い直したように足を止め、肩越しに振り向くと、低く静かな声で言葉を残した。
「七年前、お前を選んだのは、ワシの判断ミスだったようだ。操ることのできない駒は要らんのだよ、アミルカーレ……」