男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
ドアノブを掴んでいる私の右手が、微かに震えていた。
怒りが限度を超えると、人間の顔は赤から青白く変わるものなのか……。
公爵から感じるのは、ふてぶてしさでも狡賢さでもなく、冷酷さ。
見たことのない公爵の表情に、背筋が凍るような恐ろしさを感じていた。
バルドン公爵は氷よりも冷たい視線を殿下に浴びせると、ゆっくりと廊下を螺旋階段の方へと歩き出し、私の視界から消え去った。
殿下は今、なにを思うのか……。
佇むその背中からは気持ちを読み取ることができないが、私のように震えていないことは確かだ。
殿下を心配しながら、私は後悔もしていた。
私が過去の話に首を突っ込まなければ、殿下はバルドン公爵と敵対する事態にならず、苦しむこともなかったのではないだろうか……。
でも、それだと、バルドン公爵の思惑通りで、アベル様が浮かばれないし……。
私が話したことは、余計なことだったのか、それとも殿下にとって利となることなのか。
その判断がつかずに苦しむ。
私はただ、殿下の役に立ちたいだけなのに……。