男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
そうだった。恥ずかしがっている場合じゃない。
私は殿下にお願いしたいことがあって、このドアを開けたのだから。
ベッドへとゆっくりと近づいていき、座っている殿下の前で足を止めた。
目を合わせるとまた恥ずかしさに襲われそうなので、自分の足元を見つめて要件を口にする。
「シャバネル卿のお見舞いに、私もお供させて下さい」
シャバネル卿は殿下の大叔父にあたる人。
七年前、アベル様の事故に気づき、殿下に知らせの早馬を出してくれた人だ。
御歳七十五になるそうで、一昨年ごろから肺の病を患っていたが、あと三日も持たないだろうと主治医に言われたそうだ。
その知らせが殿下の元に届いたのは、今朝のこと。
多忙を極める中でも見舞いに行かねばならないと殿下は決めた。
明日の日の出と共に出発すれば、シャバネル卿の屋敷には夕方に着く。一泊して、帰ってくるのは明後日の夕方という、近くはない道のりだ。
最初はクロードさんが止めていた。
バルドン公爵との関係が最悪のときに、都を出るのは危険があると。
それはバルドン公爵が傭兵を使って、暗殺を仕掛けてくるかもしれないという恐ろしい予想だった。
しかし殿下は言った。『不在を知られぬよう、こっそり出発すれば大丈夫だろう』と。
七年前にアベル様を崖下から引き上げてくれたのはシャバネル卿だから、殿下は恩を感じていた。
そこには『行かない』という選択肢はなく、『どうしたら安全に見舞うことができるのか』という話になっていた。