夢幻の騎士と片翼の王女
考えてみれば、私は王女様とまでは言えないまでも、アドルフ王子の側室になるわけで…
それは、庶民からしたらものすごいことなのかもしれない。
うん、絶対にすごいことだ。
だって、王族の…弟君とはいえ、王位継承権第一位の王子だよ。
すごいと思う反面、まだ実感はないけれど、でも、こんな塔に閉じ込められてること自体、普通じゃないことだもんね。



「ねぇ…アドルフ様のお妃様はどんな方なの?」

「ジゼル様はランジャール王国の王女様です。」

「ランジャール王国…?」



私の表情を見て、二人は怪訝そうに顔を見合わせた。



「まさか、亜里沙様…ランジャール王国をご存知ないのですか?」

「え?…あ、あの、私は酷く田舎の小国の出身なので…」

そう言って、なんとかごまかしたけど。
きっと、ランジャール王国っていうのは誰もが知ってる国なんだ。



「亜里沙様はどちらの出身なのですか?」

「えっと…その、日本っていう島国なの…」

「に、ほん?」

メアリーさんにみつめられたアンナさんは、小さく首を振った。



「申し訳ございません。
私達は、にほんという国を存じません。」

「そ、そうだと思うわ。
ここからはすごく遠くて、すごく小さな島国なの…」

「そんな遠くからおひとりで来られたのですか?」

「え…ええ…若いうちに世界のあちこちを旅したいと思っていて…」

口からでまかせを言いながら、私はとりあえずにっこりと笑った。



「世界を旅…羨ましいですわ。
と、いうことは、亜里沙様は貴族の御出身なのですか?」

「ま、まぁね。」

「そうなんですか…きっと名門の御出身なのでしょうね。」

「そ、それほどでもないわ。」

嘘に嘘を重ねて、なんだか軽い自己嫌悪に陥った。
でも、本当のことを言ってもきっと信じてもらえないし、今は適当に嘘吐くしかないよね。
私自身、一体なんでこんな国に来てしまったのか、今でもわからないんだし。
しかも、考えてもわかりそうにないから、そのことはしばらく考えないでいようと決めている。



(今は、成り行きに任せなくっちゃ…)


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