夢幻の騎士と片翼の王女
部屋に戻る途中で、私は異様な物音を耳にした。
音は、アルフレッドの部屋から聞こえて来る。



なにか、胸騒ぎのようなものを感じて、私は、自分の姿を透明にして、壁をすり抜け、アルフレッドの部屋に侵入した。



(……これは…!)



部屋の中は、物が散乱し、足の踏み場もない程だった。
アルフレッドは焦点の定まらない目をして立っていた。
片手に酒瓶を持ち、それをぐいとあおる。
部屋の中にも何本もの空瓶が転がっていた。
確か、アルフレッドは酒が嫌いだと言っていたはずだが、どうしたことだろうと考えていると、彼はその場に座り込み、顔を覆ってすすり泣き始めた。



「アリシア…なぜ、戻って来てくれないんだ…」

その言葉に私の胸はざわめいた。



(あ……)



少し離れたところに、魔法陣が描かれているのをみつけた。
そして、そのまわりに散乱するものを見て、私は彼が何をやろうとしていたのかを知った。



それは禁じられた魔法…
死んだ者を甦らせる魔法だ。
まだ誰一人として、その魔法を完全に使える者はいない。
アルフレッドが失敗したのも当然だ。



(なんということを…)



「アリシア…君の心は誰にも渡さないと言っただろう…?
君の心は私のものだ…私だけのものだ。
邪魔なリチャードは呆気なく死んでくれた。
誰も、奴の死に疑念を抱く者はいない。
それで良い…それで良かったんだ…
セドリックはただの傀儡だ。
君があいつを愛するはずのないことはわかっていた。
君が愛するのは私なのだから…なのに……」



アルフレッドの独白が不意に止まった。



「……誰か、いるのか?」



アルフレッドが顔を上げ、あたりを見渡した。
あやつはたいそうカンの良い奴だ。
みつかっては大変だ。
私はそっと、部屋から抜け出した。


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