夢幻の騎士と片翼の王女
「あーっ!」

駆け付けた若いメイドさんが、割れた壺を見て大きな声を上げた。



「す、すみません。」

メイドさんは壺をみつめたまま、何も言わず…そのまま、またどこかへ駆けて行った。



どうしよう…大変なことをしてしまった。
弁償しないといけないだろうけど、一体、どのくらいの価値のある壺なんだろう?
私が今いただいているお給料は、ごく平均的な店員のお給料らしい。
それがまぁ日本での15万くらいだとして…
この壺が200万くらいだとしたら、一年働いても返しきれない…
この分じゃ、一人暮らしもお預けだな。
これからは少しでもお金を節約しないと…



(本当にえらいことになってしまった…)



身体の中から血の気がすーっと抜けて行くような気がした。
なんだか足ががくがくする…



さっきのメイドさんが、中年の男性を伴って戻って来た。
その身なりからしても、きっと執事かなにか責任のある立場の人だろうと思えた。



「申し訳ありません。
この壺は、私が割ってしまいました。」

「あなたは?」

「花屋の者です。
ご注文いただいたお花をお部屋に運んでいたところ、絨毯に蹴躓いて…本当に申し訳ありません。」

「……わかりました。
とりあえず、お店にお戻りください。
詳しいことは後程……」



全く生きた心地がしなかった。
行きよりも荷車はずっと軽くなったはずなのに、私の歩みはのろのろとしか進まなかった。
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