夢幻の騎士と片翼の王女




「ピエール様、花屋の者をお連れしました。」

「入れ。」



広い居間のソファに腰かけていたのは、整えられた髭を生やした男性。
年の頃は、私のお父さんと同じくらいか…
身に着けているものは、どれもとても質の良いものに思えた。



「は、初めまして、ピエール様。
私は、町の花屋で働く松下亜里沙と申します。
この度は大変な粗相をしでかしてしまい…ほ、本当に申し訳ありません。」

「……こちらへ。」

私はおずおずとピエール様の向かいの席に向かった。



「座り給え。」

「は、はい。」

ピエール様が何か合図をして、執事の人は部屋から立ち去った。
部屋の中はしんと静まり、息遣いまでは聞こえそうで緊張する。



「早速だが…うちの執事から壺のことは聞いてくれたかね?」

「は、はい。」

「ならば、あの壺がいかに大切なものかはわかってくれてるんだな?」

「は、はい、もちろんです。」

私がそう答えると、ピエール様は微かに微笑まれた。



「……君は償わなければならない。」

「は、はい……」

「だが…あの壺は金で買えるものではないし、私は金には不自由はしていない。
だから…違う方法で償ってほしい。」



そう言われた時…なにかとても怖い気がした。
もしかしたら…愛人になれとか…そんなことなんだろうか?
お父さんみたいな年の人の愛人なんていやだけど…でも、そんなことは言えない。
私は、それだけの重罪を犯してしまったんだから。



私は、ピエール様の次の言葉をびくびくしながら待った。
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