夢幻の騎士と片翼の王女
「リュシアン様が、侍女を探していらっしゃる。」

「リュシ…アン様…って…まさか……」

「そうだ。ユーロジアの第一王子、リュシアン様だ。」

「リュシアン様……」



ジェームスさんや神父さんからこの国のことはいろいろと聞いている。
つい先日は、第二王子のアドルフ様のご結婚が決まったって話を聞いた。
何でも、お二人は腹違いの御兄弟で、お二人ともたいそうお美しい方なのだとか…
ところで、侍女っていうのは多分身の回りの世話をする人のことよね?
つまりはメイドさんみたいな者なんだと思うけど…



「あの…私みたいな者が、雇ってもらえるんでしょうか?」

私がそう訊ねると、ピエール様はなぜだかくすりと笑った。



「あぁ、そのことなら問題はない。
リュシアン様が君に飽きるまで、ちゃんと勤め上げたら、あの壺のことは水に流そう。」

「ほ、本当ですか!?」

「あぁ、本当だとも。」



信じられない想いだった。
ものすごい大金をふっかけられるか、あるいはピエール様の愛人契約かと思いきや…
侍女として働くだけで、許してもらえるなんて…
その時、私は小さな違和感を覚えた。
そう…ついさっきのピエール様のおっしゃった言葉…



『リュシアン様が君に飽きるまで、ちゃんと勤め上げたら…』



「あ、あの、ピエール様……飽きるっていうのは……?」

「あ、あぁ…リュシアン様は気まぐれなお方でな…
侍女もなかなか長続きしないのだ。」

「……そうなんですか。」



どうやら、リュシアン様は、気難しい御方のようだ。
それを思うとちょっと心配だけど、でも、身の周りのお世話なら、私にも出来る…!



「わかりました、ピエール様。
私、リュシアン様の侍女として働かせていただきます。」

「そうか…君は正しい選択をした。
数日中には、お城へ連れて行こう。
荷物は何も持たずして良いからな。」

「え…?」

「君はお城に住み込みで働くのだ。
君の住む部屋はあるから、何も心配しなくて良い。」

「ありがとうございます、ピエール様!」
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