ヴァージンの不埒な欲望

「何も知らない初心なご令嬢や、身分違いのメイドに、見目麗しい王太子様や侯爵様が、優しく意地悪に恋の手解きをしていくんです。そこにはちょっとした誤解やすれ違いなんかもありつつ、ヒロインの純粋でせつない気持ちも絡んできて」

私は妄想しつつ、うっとりと告げた。

「“王太子様”だから、この本の表紙のような『金髪碧眼』が、あなたの理想のヒーローなんでしょうね」

苦笑混じりのその人の言葉にも、私はばか正直に答えていた。

「いいえ!私、海外旅行の経験もないし、身近に外国の方もいないせいか、『金髪碧眼』とか言われても、イマイチピンとこないんです。私はやっぱり、黒髪に黒い瞳がいいんです。じゃないと、萌えませんからっ!」

最後には胸元で、右手に拳を握りつつ語っていた。宙を見ていた視線が、目の前のその人を捉える。

目を丸くしているその人と目が合い、私はようやく自分の醜態に気付いた。

「っっ!!すっ、すみませんっ!」

俯いて、肩をキュッ!竦める。

わっ、私ってば、何乙女系ノベルについて、語っちゃってるのよ~!?

今さら気付いた事に慌てていると、その人がクスッと笑った。

「私の髪の毛は、本来の黒髪のままですが。『萌え』ますか?」

目を丸くしたまま、その人を見つめた。優しく細められた瞳に見つめ返され、顔が沸騰した。


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